2023/12/31 04:39
南西諸島の旅から帰った私は立川にアトリエを借りました。
立川のアトリエは駅から北に15分程行ったところにありました。車が置けて家賃が手頃で中庭で作業ができるスペースがあるところでした。
私はそのアトリエで1年程、ギリシャ神話の世界に没頭していました。
アトリエから駅に向かう途中に、大衆劇場があったり、こじんまりしたBARがあるなかなか面白い場所でした。
来てしばらくは、午前中に立川の図書館でギリシャ神話を調べたり勉強してから、午後に一旦帰ってシャワーを浴びてサラダとパスタを作って食べ、車でドライブがてら本屋さんに行ったりして、夕方にBARで地元の人たちの話を聞いたりして帰ってくるという過ごし方でした。
そんなふうにギリシャ神話を読んでいるうちに、私はギリシャ叙事詩「イーリアス」に出会いました。
ギリシャ叙事詩「イーリアス」の本の中は、
たくさんのニュアンスが溢れていて、詩的で明るい描写で語られてゆく場面の数々でした。
なんて面白い世界なのだろう!と私は夢中で読みました。
そうして1年間程かけて45×60センチの板にギリシャ叙事詩「イーリアス」シリーズ170枚を描き上げました。
このシリーズは、「イーリアス」の詩的な場面から広がる当時の私だけが見ることができた世界でした。
ギリシャ叙事詩「イーリアス」の連作を描き上げたあと、2005年「イーリアス」の個展を開催しました。
ギリシャ神話に没頭する少し前の短い期間に福生発生の有名な飲食店のエンジニアリング部の社員になりました。全国にある店舗の内装や絵を担当する部門でした。
美大卒の人も1年待ちぐらいで入るようなところに、
「やってみたいです」
となんのツテもない社長さんに直接面接してもらって入りました。
後から聞くと「どうやって入ってきたの?」「社長と面接なんて普通できないんだよ」など言われ、不思議な入り方をしてしまったようでした。
働いてみると、美大卒で来てる人達とは考え方も、何もかも違う環境。
そりゃぁそうなのですが・・・。
同じ絵というものに向かっていても、こんなに方向性も、感じ方も違うのだなと思いました。
何日目かに、今は独立しているという先輩が来ました。ちょっと話しただけで、この人の生き方かっこいいなーと思いました。
「壁画描いてるんだって?かっこいいね!でもみんなに妬まれるでしょ。でも自分の絵があるんだったらここは違うよ。だから僕は独立した。」
と先輩は言いました。
私はその人の言葉を聞いてからよく考えて、何日目かに会社をやめました。
ホントに短い期間でしたが、やってみて良かったと感じています。今でも私を採用してくれた社長さんにはとても感謝しています。
その事があったから私は迷わずに、一つのテーマだけを追いかけて、「私のギリシャ神話」という課題に没頭できたのだと思っています。